この地方の春は遅い。
冬の間、鉛色の空が幾日も続く。
人々は、長く雪に埋もれたどんよりした曇り空の下で
ひっそりと春を待つ。


やがて雪が解け始め、次第に土が見えてくる。
それが徐々に乾き、黒い土が広がっていく。
長い間、雪に閉ざされていた人々にとって
それはたとえようもない喜びとなる。
雪が解けて土が現れる
そんな当たり前のことが殊のほかうれしく
心が躍るのである。


人生の中で、人は幾度となく困難に出遭い我慢を強いられる。
あるいは、何か一つの目標を目指して
精進の日々を送らねばならないこともある。
だが、それが苦しければ苦しいほど、
つらければつらいほど、些細なことにも喜びや幸せが感じられる。
そして困難を乗り越え、志を遂げてときの開放感、達成感は格別なものになる。


厳しい冬のあとには必ず春が来て、陽光が降り注ぐ。
いまたとえ不遇のうちにあったとしても
それはあとの喜びを倍加させる試練ともいえよう。


春はもうそこまで来ている。



Yumi Arai The Concert with old Friends